アド・バード

今回は椎名誠SF小説、「アド・バード」を紹介しようと思います。 この本は依然紹介した横浜駅SFの発想のもとになった本で、読んでみればよく似た雰囲気であることが分かると思います。 舞台はあらゆる技術が動員された広告戦争の末荒廃した世界。滅びつつある集落で暮らす兄弟が失踪した父親を捜してマザーK市と呼ばれる都市へ旅に出ます。彼らが出会うのは奇妙な改造を施された広告用生物たちの成れの果て。必死になって都市にたどり着いてもそこに人はおらず、上空に投影されるCMや水を流すたびに商品名を読み上げる蛇口などだけは動き続けています。そして彼らはマザーK市を抜けさらに旅を続けます。旅の途中で何度も出会う謎のアンドロイド、キンジョーと協力しながら進む旅路の果てに彼らがたどり着いた真実と、その先に選ぶ道も見どころです。 この本を盛り上げるのはやはり架空世界の描写です。主人公兄弟が使う奇妙な銃、「ねご銃」、「ヒゾムシ」「ワナナキ」といった野生化した人工生物たちとそれによって生み出された生態系が独特で癖になる文体で描かれていきます。題名にもなった「アド・バード」(アドバタイジング・バードの略です)、見るものが誰もいないにもかかわらず広告であふれかえるマザーK市の描写など、機械や無機物の描写もまた同様に印象に残ります。 兄弟たちの旅だけでなく、道を挟んで植えられた2種類の改造植物の長い年月をかけた戦闘や訪れる者のいなくなったホテルのボーイのアンドロイドなどの物語が挟まれます。彼らの物語と兄弟の旅路の一瞬の交わりもまた楽しめるでしょう。 奇妙な世界を旅するSFの醍醐味ともいえるワクワク感と荒廃した世界の寂しさ、それらを素晴らしい筆力と書き込みで表現した一冊です。 www.amazon.co.jp この文章書くために調べて知ったのですが、藤井聡太七段が好きらしいです。素晴らしい趣味ですね。

kaeru-books.net