無名祭祀 感想
ロバート・E・ハワードのクトゥルフ神話集、「無名祭祀」を読み終えた。
「剣と魔法の時代」というものを生み出した人物の一人であり、生前ラヴクラフトとも親交があったロバート・E・ハワードが書いたクトゥルフ神話ものを一冊にまとめたもの。ボリュームは驚異の600ページ越え。
主に剣と魔法の時代ものと、現代伝奇もの(とはいえ書かれたのが100年近く前なのでその時点での「現代」だが)に分けられる。
剣と魔法の時代ものでは「ハイボリア時代」というハワードの代表的なシリーズ「蛮勇コナン」(未読です)や古代ローマ時代、バイキング時代などにうごめく太古の怪物が、現代伝奇ものでは20世紀アメリカ、ヨーロッパで起こる奇妙な出来事を描いている。
もともと強い男性が敵を倒す、ヒロイックな物語を書いている人物であるだけあり、ラヴクラフトの陰鬱とした物語と比較して邪悪な妖術師との対決や怪物に立ち向かう人間など、などより分かりやすく力強い物語になっている。
クトゥルフ神話TRPGなどの昨今のクトゥルフ神話ものの源流はこちらの影響もあるのかもしれない。
以下ネタバレ全開
続きを読む野狗子-SlitterHead-クリア感想 素晴らしいコンセプトと、物足りなさ
野狗子-SlitterHead-をクリア ハード、ナイトメア難易度クリア以外の実績を集めて23時間ほど。
ホラーゲーム・・・に見せかけたアクションゲーム。 プレイヤーは生命体に憑りつき、支配する慿鬼と呼ばれる謎の存在となり、巨大都市をうごめく怪物、野狗子を狩っていく。
以下ネタバレ前回の感想ばかり書いていくのでご了承ください。
続きを読む都市伝説解体センター 感想 最新のオカルトミステリーとどうしても気になる点
都市伝説解体センタークリア、時間は15時間ほど。
人には見えないものが見える少女、福来あざみが奇妙な噂を解決する「都市伝説解体センター」の調査員として様々な事件を調査していく。
オカルト×ミステリーは個人的に大好物なので気になっていた。
ゲームでは奇妙な事件に遭遇した人々から依頼を受け、それらの奇妙なオカルト現象をSNSでの調査、現場調査を駆使して「解体」していく。 オカルトとミステリを組み合わせた物語は科学や警察の力が強くない過去の時代を舞台にしたものが多く、現代社会を扱ったものはあまり知らないのだが、本作ではSNSでの炎上を物語の根幹に据え、オカルトを現代社会でうまく扱っている。
続きを読む巨星
「巨星」の感想
ファーストコンタクト、近未来SFなど全11篇をそろえたピーター・ワッツの短編集。
特に好みの作品を紹介していけばまず「遊星からの物体Xの回想」。 実は原点の映画を見たことはないのだが、集合精神を持った異星生物の視点から人類を描くというのが面白い。先に映画があったからこそできる手法だとも思うが異質なものから人類を見るというのはSFの醍醐味だと思う。
「神の目」は人間の深層心理、表に出さない衝動を読み取り、一時的に無効化できる装置の普及した社会を描いた一作。明確に他者への危害を望む衝動を抑圧しながら生きるとき、それを消し去る手段を得たなら何を選ぶべきなのか。主題はずいぶん異なるが、理解はできる個別の技術と選択が倫理的なジレンマを突き付ける様はイーガンの短編「繭」を思い出した。
打って変わって「乱雲」は雲が知性をもって人類が地上の覇者ではなくなった世界でかろうじて地上生活をする親子の話。知性を持った雲が自在に嵐や雷を操り人類社会や生態系を破壊していく様は壮麗な恐ろしさがある。過去の世界に後悔を抱えた父と新しい世界を当然として順応していく娘の対比で異世界を切り取った一作。
最後の3編、「ホットショット」「巨星」「島」は「6600万年の革命」と同じ世界・登場人物の物語。時系列としては「ホットショット」→「6600万年の革命」→「巨星」→「島」の順番らしい。 「6600万年の革命」はワームホール構築船の管理AIに対する反乱を描いた作品だが、「ホットショット」は自由意志、「巨星」「島」はファーストコンタクトを扱っている。
「ホットショット」はワームホール構築船の出発前、サンデイは乗務員になる前最後の休暇で地球では存在を理論的に否定された「自由意志」を体感するツアーに参加する。太陽の磁場の中を通過することで決定論的にふるまう脳をかき乱し、「自由意志」に近い何かを獲得する旅だ。たとえ決定論から逃れられないのだとしても、そこに意味と納得を与える必要性と衝動と希望を見出す。
「巨星」では「6600万年の革命」の後、AI側の安全装置を担う人間「ぼく」とかつて反乱者だったハキムが目を覚ます。その時ワームホール構築船「エリフォラ」は恒星の中に突入するルートを進んでいた。「6600万年の革命」の直接的な続編といえる作品で、ファーストコンタクト要素は控えめ。それでもスペクタクルなシーンとアイデア、緊迫したドラマの両立が見事。 「島」では「ホットショット」「6600万年の革命」で登場したサンデイが主人公。恒星全体を覆う生きたダイソンスフィアとでもいうべき存在とのファーストコンタクトを果たす。ワームホール構築の過程でその異種知性を死なせることになると考えたサンデイはどうにか食い止めようとするが・・・ 人間の知性、機械の知性、異種の知性と様々な知性のありようと対立を描いてきたこの作品群の最後となるのにふさわしい出来栄え。
様々な面から知性や意識のありように迫る傑作選の名に恥じない短編集だった。
祇(くにつがみ):Path of the Goddess プレイ感想
CAPCOMのゲーム、祇(くにつがみ):Path of the Goddess のプレイ感想。 1週目クリアまで25時間程度、全実績を解除して45時間手前、プラットフォームはSteam。
https://www.kunitsu-gami.com/ja-jp/
続きを読む黄衣の王 感想
「SIGNALIS」というSFホラーゲームをプレイし、「黄衣の王」がクトゥルフ神話の架空の産物ではなくクトゥルフ神話誕生以前から存在する短編集だと初めて知った。
もともとはロバート・W・チェンバースという作家の書いた短編集、およびこの短編集に出てくる発禁とされた戯曲、「黄衣の王」が存在し、これを読んだラヴクラフトがクトゥルフ神話に取り込んだものらしい。 そんなわけでペーパーバック版の黄衣の王を購入してみた。
実際の短編集には全10編が収録されているが、今販売されているものは黄衣の王が関係する4編のみが収録されている。 収録されているのは「名誉修繕人」「仮面」「ドラゴン小路にて」「黄の印」。 出版後世界各地で読んだものが精神に異常をきたし、政府や教会などから発禁処分とされた戯曲「黄衣の王」を読んでしまった者たちの末路が描かれる。 「名誉修繕人」は1920年から公営永眠所が運営されているワシントンが舞台。武具屋の上で「名誉修繕業」という奇妙な業務を営むワイルド氏と彼に入れ込むカステインは、二人して奇妙な計画を進めていた。そのためにはカステインの兄にある条件をのんでもらう必要があったのだが?舞台設定、主観視点、どこから狂っているのかわからない登場人物たち、と筋書きが読める一方で薄気味悪さが常に付きまとう。 「仮面」は漬けた生物を大理石に変えてしまう奇妙な液体を発見した芸術家たちの恋愛・友情物語。一見するとハッピーエンドのように終わるのだが、考えてみると後味が悪い。 「ドラゴン小路にて」は黄衣の王を読んでしまった人物が救いを求め教会へと行くものの、そこで奏でられるオルガンの響きに邪悪な意図を見い出してしまう。 「黄の印」では若い画家と彼のモデルが仲睦まじく仕事をしている傍ら、薄気味悪い男が町の教会で守衛をしていると評判になっていた。 前半2編、特に「名誉修繕人」は文章全体から漂ういびつさが秀逸で、後半2編もただ関わってしまっただけで自身にはどうしようもない邪悪に翻弄される不条理さに今日のコズミックホラーの原点を感じることが出来た。
ラヴクラフトに影響を与えたというのも理解できる作品群であり、むしろ明確な設定が付与されてしまう前の根源的な恐怖を味わえるものだった。
ところでwikipediaによると黄衣の王に本来収録されているはずの残り6編は怪談風の作品が3編、恋愛小説がもう3編らしい。 「黄の印」は半分ほどが画家とモデルの恋愛小説なのだがこれはこれで面白かったので、ぜひ全編通して訳してはもらえないものだろうか。 ぜいたくを言えば初版本の表紙で。