世代宇宙船を扱ったSF小説

タイトル通り、これまで読んできた中で世代宇宙船を扱ったSF小説をざっくりとまとめていきます。

宇宙の孤児

ハイラインの書いた世代間宇宙船ものの大本といえる一冊。 長い旅路の中でかつての知識は失われ、人々は自分たちの住む場所を「船」と呼ぶが船が何を意味するかは知らない。 優秀な青年ホイランドはその知性から「科学者」と呼ばれる特権階級へ招かれるがある日ミュータントと呼ばれる敵性存在に拉致されてしまう… と、この時点ですでに物語のスタンダードはある程度確立しています。 中編と呼べる程度の分量でサクサクと読めますし、実際面白いのですがやはり現代に読むとあちこちに古さがあるのは否めません。

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寄港地の無い船

宇宙の孤児への返答として書かれたともいう一冊。 船内には異常繁殖した巨大な植物が繁茂し、人々は前部人と呼ばれる謎の存在を恐れながら暮らしている。 ある日狩人ロイは司祭マラッパーから船の前部へ向かわないかと誘いを受け旅を始めるが… ただでさえ狭い船を植物が覆いつくした息苦しい船内をひたすら進み続ける本作は宇宙の孤児とはまた違う圧迫感をもたらします。 終盤、宇宙船の行く果てが明かされる悲壮感が秀逸な一作であり、今読んでも十分楽しめる作品です。

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ブレイキング・デイ

2023年刊行の最新世代間宇宙船もの。 AIに支配された地球から逃れ132年が経過した宇宙船団は目標星系に近づき減速のための準備に追われていた。 そんな中機関部訓練生ラヴィは宇宙服を着ずに宇宙空間を遊泳する少女を見かける… と、現代風にリファインされた世代間宇宙船ものとしてとても面白い一作です。 まずこの作品ではある程度運営がうまくいっており、132年が経過した現在でも宇宙船を制御できています。 一方でインプラントから思考で機器類を制御するなど船内で独自の発展を遂げているところも見所です。 また宇宙船の構造や恒星間航行への理解も進み、8つのリングと宇宙塵対策のシールドを備えた宇宙船3隻で船団を組む、というこれまでの世代間宇宙船ものより解像度の上がった構造をしています。 また宇宙船や旅の目的について知ったまま年月が経過する中で作られた独特の文化や価値観の描写も魅力的でしょう。 一方、これまでの世代間宇宙船ものでも描かれてきた閉鎖環境での少人数集団がどうしても陥る寡頭政治もしっかりとあり、物語は彼らが隠蔽している事実をめぐってのサスペンスとしても展開していきます。 全体を通じて世代間宇宙船をテーマとしたSFに新しい風を吹き込む一作でした。

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生存の図式

最近新訳が出ましたが初版は40年以上前。 第二次大戦中に沈没したタンカーと恒星間宇宙を渡る異星人の物語が交互に展開されていく。 タンカーの内部では奇跡的に生存可能な環境が生まれるものの、海底に擱座しやがて住めなくなることは明白だった。 一方恒星の肥大化によって滅びの運命にある惑星を脱出した異星人たちも次第に減っていく物資の中で厳しい選択を迫られる。 極限環境での生存のための格闘を繰り広げる両者が最後にいかにして交わるのかが熱い作品でした。

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流浪地球

こちらは同名の短編集の一編。この作品では世代間宇宙船ではなく、地殻から直接エネルギーを引き出し地球を移動させる、というとんでもない方法で恒星間航行を行います。 いずれ起こると予想された太陽の暴走から逃れるための策ですが、なかなか太陽の暴走は起こらず、地球の軌道が広がり地表での生存が困難になっていくにつれ人々の間で疑念が高まっていくさまが秀逸な作品でした。

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グレッグ・イーガンの「直交」三部作なんかも該当する気がしますがまだ読めていませんね。 また今後新しいものを見つけたら適宜更新していきたいです。