祈りの海

今回はグレッグ・イーガンの短編集、祈りの海を紹介したいと思います。 この中に収録されている短編、「貸金庫」は新海誠監督が自身の映画「君の名は」のインスピレーションもとの一つとして挙げている作品で、ついこの前イーガン本人が君の名はを見たらしいです。 ↓イーガンのツイートを引用リツイートしている新海誠

twitter.com とはいえ貸金庫の君の名はとはだいぶプロットが違い、毎日目を覚ますと違う人間の意識を乗っ取っている一人の人間の話です。 主人公は毎朝目を覚ますと違う人物の体に宿っています。成長していく中で自分が特異な存在であると気づいた主人公は貸金庫を一つ借り、そこに日々の記録を蓄え始めました。 そしてある日、ある研究所に勤める看護師の男の体で目を覚まします。 君の名はとはだいぶ違う話ですが、意識だけの存在として生きる人間の生活と新たな出発が静かに描かれた一編です。 他にも、 絶対に変えられない未来との通信装置が作られた未来社会で何を信じればいいのかわからなくなっていく「百光年ダイアリー」 仮想世界に人格をバックアップできる社会でバックアップされた人格に対して起きた誘拐事件「誘拐」 LGBT差別がなくなった社会にとてつもない爆弾が投げ込まれる「繭」 パラレルワールドを渡り歩いて相手を殺していく「無限の暗殺者」 など、僕のお気に入りの短編がいくつも入っている短編集です。 「誘拐」は自分以外だれも身内はバックアップを取っていないはずの主人公に突如身代金が要求されますが、誘拐の手法と主人公の決断がひんやりとします。 「繭」は差別が少なくとも表面上はなくなった世界で一つの技術をめぐっておきる推理小説のような話で、なんも問題もないように見える技術の利用方法が人の差別意識のかなり根深い部分にずぶりと突き刺さるさまが技術者志望としてはなかなか恐ろしいです。 他の短編も最先端の技術と人間が絶妙にかみ合ってドラマを生み出していくものばかりなのでぜひどうぞ。 www.hayakawa-online.co.jp