遥かなる星

今回は未完の歴史改変宇宙開発SF,「遥かなる星」全三巻を紹介しようと思います。 作者である佐藤大輔は仮想戦記作家として有名な人物ですが、シリーズものを途中まで書いて投げ出す悪癖で知られており、残念ながら本シリーズも3巻までで中断しています。また2017年に本人が亡くなっているため、永遠に中断したまま、ということになります。 とはいえ3巻まででも十分に楽しめます(まあいいところで終わるので続きが一生気になりますけどね) 「遥かなる星」はキューバ危機から第3次大戦がはじまり、アメリカ合衆国が滅亡した世界で日本が宇宙開発を目指す物語です。1巻が第3次大戦による滅亡までの物語、2巻3巻が奇跡的に核兵器から逃れた日本がいずれ起きるであろう第4次世界大戦から逃れるため宇宙を目指す物語となります。 一般に宇宙開発と主な動機として描かれるのは開拓や新たな世界へのロマンといったポジティブな感情ですが、この物語で宇宙開発を推し進めるのは今度こそ世界すべてが滅ぶであろう第4次世界大戦から逃れるため、宇宙に住処を作る、という極めてネガティブな理由です。 しかしそんな世界であっても人々はロケットや宇宙に自らの夢を乗せ、そして現実とのずれに葛藤しながら開発を進めていきます。 もともと極めていリアルな仮想戦記を書くことで知られている作家だけあり、第3次大戦に至る過程、第3次大戦後の世界についても緻密に描かれ、物語の説得力を増しています。 宇宙開発のめどが立ち、役者もそろったところで終わってしまう本シリーズですが、異色の宇宙開発SFとして十二分に楽しめるものとなっています。 www.hayakawa-online.co.jp