夜の声

今回はSFから少々離れて東京創元社の復刊フェアで復刊されたホラー短編集「夜の声」を紹介しようと思います。 以前同じ作者の書いた「幽霊狩人カーナッキの事件簿」を紹介しましたが、この短編集では作者ホジスンの船乗りとしての経験をもとに書かれた海洋系のホラー小説がメインとなります。 表題作「夜の声」では主人公は航海中の夜、どこからか老人の声を聞きます。決して明かりをつけるなと言いつつ食料を要求する老人に同情し分け与えると、老人は遭難し流れついた島で自身と恋人に起きた身の毛もよだつ物語を語り始めます。さて、実際に読んでみるとその方面に詳しい方なら「マタンゴ」という映画が思い浮かぶと思うのですが、その映画の原作です。「マタンゴ」と聞いて内容がわかる方は身の毛もよだつ物語の内容もなんとなくわかるでしょう。それと明かりをつけるなという理由とか。 ホジスンは少年時代を厳しい経済状況ゆえに船乗りとして過ごすことになり、なおかつ先輩に虐待され過ごしたた経験から海に対し恐れと憧憬を抱くことになったといわれています。そのためこの短編集では最後の「水槽の恐怖」以外すべて航海中に奇妙なものに遭遇するという筋書きになっています。 さて、これらのホラー小説が怖いかと聞かれれば少なくとも僕の基準ではそこまで怖くはないです。むしろ大海原に対して人の抱く恐怖、そしてそこから生まれる想像が興味深い、といったほうが適切でしょうか。 またアイディア自体も現代となっては使い古された感のあるものがところどころみられますが、そもそもホジスンが活動していたのは1900年代から1910年代という100年以上前の作家です。そんな作家の書くホラー小説に現代でも通じる、また現代でもまだ斬新さを保っている作品が多くあるのは十分に素晴らしいことでしょう。 ホジスンはクトゥルフ神話創始者であるラヴクラフトが影響を公言している作家でもあり、彼の想像力は現代でも十分に通用します。ぜひこの機会に読んでみてください。

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