ダイヤモンド・エイジ

そんなわけで今回は以前紹介したスノウ・クラッシュの作家のサイバーパンクSF、「ダイヤモンド・エイジ」を紹介しようと思います。 タイトルにあるダイヤモンド・エイジとはナノテクノロジーの進歩した新時代のこと。ナノテクによってダイヤモンドを建材とした建物が乱立するようになったことからこう呼ばれます。 旧来の国家体制は崩壊し、人々はそれぞれの主義主張や職業をベースとした集団<部族>に所属しています。そんな部族の中の一つ、ヴィクトリア朝時代の倫理規範と資本主義を統合した社会を目指す「新アトランティス」ではとある株主貴族が自身の娘の教育のため、「若き淑女のための絵入り初等読本」という本を秘密裏に開発していました。それはただの本ではなく、所有者自信を主人公として自身の境遇に応じた物語を展開していくナノテクの粋を集めた教育ソフトとして完成します。しかし開発を請け負った技術者ハックワースはそれを我が子に渡すため違法コピーを製作、そして思わぬ事態からその違法コピーはスラム街で虐待を受けながら育つ少女ネルへと渡ることになります。 違法コピーに手を染めたことをきっかけに<部族>間の陰謀に巻き込まれるハックワース、そして虐待を受けながらも自身のために紡がれる物語を読みながら育ったネルはそれぞれが社会の変革に飲み込まれながら自身の道を切り開いていくことになります。 スノウ・クラッシュにおいても偏執的ともいえる緻密な描写で物語に説得力を与えていましたが、本作でもそれは健在で、ハードカバー単行本で525ページの大ボリュームの作品です。今作はナノテクの発達した世界であり、3Dプリンターのはるかな進化系ともいえるソースと呼ばれる源からあらゆる原子を供給されて駆動するマターコンパイラと呼ばれる装置からあらゆる物質、機械を生成することができます。そうして作られるナノテク機械たちは目に見えないほど微小で、大気に浮いたり体内に潜り込んだりあらゆる方法で情報を収集、互いに通信を行っています。それらの使い道や動作原理などもそれだけで読み物になる面白さです。 さて、国家は崩壊し通信ネットワークで結ばれた数多の<部族>がパッチワークのように領土を持ち入り乱れる世界、そこでは<天朝>部族が勢力を着々と伸ばしつつあり、やがて世界は<部族>間の勢力図を一変させる事態に向け突き進んでいくことになります。その激動の世界の中ハックワースとネル、そして彼彼女の周囲の人々は何を考え、何を決断し圧倒的な変革の流れの中でいかなる役割を果たすのか。 ぜひ読んでみてください。 残念ながら文庫版もハードカバー版も絶版で電子版もなく図書館で読むか値上がりした本を買うしかなく…

追記 現在電子版が入手可能です

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