時間のないホテル

今回は前回時間SFを紹介したおまけで「時間のないホテル」を紹介したいと思います。ただこれはSFというよりは超常現象を扱ったホラーです。僕基準ではそこまで怖くなくむしろ幻想小説だと思ったのですが一応言っておきます。 ホテルでホラーと言えば歴史を感じる古びたホテルを思い浮かべる人が多いかもしれませんが(僕はミステリの方が好きなのでそういう舞台設定だと連続殺人の方が先に浮かびますけど)、この物語で舞台になるのは建設された直後の国際チェーンホテルです。主人公、ニール・ダブルの仕事は世界中の見本市に様々な会社の代理人として出席する仕事。違法ではありませんが、開催される見本市の規約には違反していることが多く、あまりいい目では見られていません。そんな彼はコンベンションセンターと直結した大手チェーン系ホテル「ウェン・イン」に宿泊します。そこで彼は仕事をしながら見本市の会場と客室を行ったり来たりする3日を過ごすはずでした。しかし彼の前に現れた女性がチェーン店である世界中のホテル全てがつながっている、という奇妙な秘密をささやきます。眠れず夜中に部屋を出た彼は廊下の果てに行きつくことはなかったのでした… 世界中の大都市の写真を見ると分かるように、いま世界中にほとんど同じような建築物が山ほどあります。特にチェーン店のホテルは世界のどこに行ってもほとんど同じ内装と全く同じサービスを提供してくれます。そんな時代だからこそ生まれた作品だと言えるでしょう。著者はイギリスで建築・デザイン関係のライターとしても活動している人物で、この物語でもホテルという巨大建造物に対する愛が感じられます。 何処までも続き、意思があるかのように世界中に拡大を続ける巨大ホテルとそこに囚われた主人公の物語は古びたホテルや廃墟のような薄暗い不気味さや生々しさを感じさせるホラーではなく、清潔感にあふれ煌々と照明が輝くからこその独特な恐怖と幻想性を見せてくれます。 無機質で清潔、無個性であるとも誰にでも受け入れられるともいえ、代わり映えがしないともどこでも同じ安心感があるともいえる、ある意味とても身近な存在である近代建築の中で繰り広げられる幻想物語です。 www.tsogen.co.jp