ヴィリコニウム 感想

ヴィリコニウム パステル都市の物語 を読み終えた。 帯にはスチームパンクの祖型、風の谷のナウシカの先行作など魅力的な文言が並んでいる。

4本の短編と1本の中編からなる形式で、午後の文明と呼ばれる絶頂期の文明が衰退したのち、残された都市ヴィリコニウムとその周辺で展開していく。

帯にもあるように今やSFとしては比較的見かける設定になったものだが、この作品の魅力は幻想小説的に展開される不確かな物語と静かで暗い描写にある。

斜陽の文明は陰鬱な美しさを放っており、その中で生き抜こうとあがいたり過去の因縁を清算しようとする人物たちが独特の暗さと輝きを放つ。

最後の中編ではこれまでの短編に登場した人物が登場するが、立ち位置や来歴、結末は大きく異なる。解説ではパラレルワールドなど今風な解釈を披露しているが、この物語の場合は長い時間の中で同様の歴史が何度も繰り返されている、と考えたほうが面白い気がした。

総じて文体と雰囲気を感じ取る作品であり、その陰影には魅入られるものがある。 スチームパンクとは違うが、とてもいい本だった。

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