折りたたみ北京

さて今回は前回に引き続き、中国のSF「折りたたみ北京」を紹介しようと思います。 これは中国の作家7人の書いた計13の短編をまとめたアンソロジーになります。 それぞれの短編もファンタジー風味の強いものからハードSFより、思想的な色が濃いものまでさまざまな方向性を見せてくれます。 最初の短編「鼠年」は遺伝子改造された強靭な鼠を駆除する駆除隊に入った青年の見る世界の仕組みと、そこで生まれる予想外の事象が汚いけれど力強さを感じさせます。 次の短編「麗江の魚」は同じ作者ながら打って変わって幻想的な美しさを見せてくれる短編です。 他にも一人っ子政策によって少子高齢化が加速する中国での遠隔操作型介護ロボットと、それによって新しい生き方を見出す高齢者たちを描いた「童童の夏」、検閲がブラックリスト方式ではなくホワイトリスト方式になった世界の息苦しさを生々しく描いた「沈黙都市」などが続きます。 最後の二編は先日紹介した「三体」の作者劉慈欣による二編。秦の政王に使える荊軻が300万の軍隊を使い人間コンピュータを作り上げ、円周率の計算に挑む「円」、ある日突然亜光速宇宙船に乗って現れた人類の創造主「神」とのファーストコンタクト、そして文明の終わりを迎えつつある彼らと人類の交流を描いた「神様の介護係」が収録されています。 大分昔に読んだので内容を思い出せない短編もいくつかあるのですが、どれもそれぞれの美しさを持った短編集です。 個人的なおすすめは最後に収録されている「神様の介護係」でしょうか。全体的にブラックユーモアのようなものを感じる短編なのですが、緩やかながらも定められた滅亡に向かっている「神様」と、まだ生まれたばかりの文明を成長させようとする人類の対比、それぞれの心情がしっかりと描かれた短編になっています。 ついこの前文庫版も出版されましたので是非どうぞ。 www.hayakawa-online.co.jp www.hayakawa-online.co.jp huyukiitoichi.hatenadiary.jp