魔王:奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男

久しぶりのノンフィクションのコーナーです。 今回紹介するのは「魔王:奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男」です。 黒人差別関連のデモで大きく揺れているアメリカですが、そのほかにもオピオイド系鎮痛薬の乱用が社会問題になっています。医師の処方箋さえあれば合法的に手に入るこの鎮痛薬には常習性があり、全米で1000万人を超える乱用者がいると推定されています。 医師が気軽に患者に処方箋を出し、更には余裕をもって処方された患者がそれを転売するなどの方法でネット上に出回っています。しかし今回の物語の主人公?ポール・ル・ルーはそれにとどまらない巧妙なシステムを生み出します。彼は暗号化されたネットワークを作り、各地の医師や薬局の薬剤師を集めました。オピオイドの欲しい患者は自身の病状をオンラインで登録します。するとその病状はネットワークにつながった医師の誰かに送られ、その医師は送られた病状をもとに診断を下し処方箋を書きます。その処方箋は再びネットワーク上の薬剤師に送られオピオイドが処方され患者に届けられるわけです。医師も薬剤師もネットワークの全体像を把握していないので巨額の利益を上げる違法ギリギリの企業に取り込まれていることに気付いたものはいませんでした。この本にはネットワークの構成員が何人か逮捕され登場しますが、彼らはオンライン医療に将来を感じた若い医師や長年続けてきた個人薬局が時代に取り残され閉店を考えていた時に営業マンにアプローチを受けた老店主などばかりです。 本書ではそんな巨大ネットワークを作り巨額の利益を上げるだけでは飽き足らず、ソマリアに傭兵団を作ったり殺し屋を雇ったり北朝鮮覚せい剤取引にも手を出すなど、あらゆる犯罪に手を出す組織を作り上げた人物、ポール・ル・ルーと彼が生み出した巨大な犯罪組織をめぐる様々な人物を追ったノンフィクションです。 この組織の面白いところは組織の全体像を把握しているのがポール以外にはほとんどいないことでしょうか。世界各地に散らばる構成員たちは彼から直接命令を受け行動します。本物の汚れ仕事をしている人以外、自分たちがどこか後ろ暗い仕事をしていることにうすうす感づいていますが大抵貧困層の人物なので高給の支払われる仕事を辞めることはできませんでした。 さて、長いこと誰にも気づかれなかったオピオイド取引ネットワークですが、新人麻薬捜査官二人がある日存在に気付くところから本書は始まります。彼らの執念深い捜査によりやがて巨大な組織の全貌が明らかになっていく一方、犯罪グループ側の人物の証言でポールの突飛な様々な計画の舞台裏をみられます。彼らの攻防はまさに現実は小説より奇なりといったところです。ただどうにも関係者が多く、章ごとに視点人物がしょっちゅう入れ替わるので読みづらいのも事実です。 アフリカで天才コンピュータ少年だったポールの築き上げた巨大な帝国の全貌、ぜひ読んでみてください。

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