第六ポンプ

今回はパオロ・バチガルピの短編集、「第六ポンプ」を紹介したいと思います。 表題作、「第六ポンプ」は出生率が低下し痴呆化が進行したニューヨークが舞台。まともな会話が成り立つかも怪しくなってしまった住人たちの中で、比較的まともな下水ポンプ施設の職員である主人公の物語が描かれます。インフラの管理がされなくなり、少しずつながら確実におかしくなっていくニューヨークでついに巨大下水ポンプの一つが停止し、主人公はその原因を調べるため奔走します。 同じ作者の長編小説「ねじ巻き少女」と同じ世界で繰り広げられる「カロリーマン」では石油資源が枯渇し、特許で管理された遺伝子組み換え作物と筋肉をエネルギー源とするアメリカでとある荷物を運ぶ仕事を請け負った男の逃避行を描きます。 大渇水となったアメリカで水の権利を持つカリフォルニア州に水を差し押さえられる中、水を貯える植物を違法に収穫する「タマリスク・ハンター」、不死となった人類社会で人口を制限するために新生児を処分する仕事をする主人公を描く「ポップ隊」、機械か遺伝子改造動物しかいなくなった世界で本物の犬に出会う「砂と灰の人々」、巨大生体都市が育ちつつある中国でダライ・ラマの人格の入ったデータキューブを手にしてしまった少年の冒険を描く「ポケットの中の法」など、薄暗い絶望に包まれた世界で生きる人々を描いた短編全10編が収録されています。 どの短編も緩やかに荒廃していく世界の閉塞感や絶望感、そして時折その中に混じるわずかな希望をとてもうまく表現しています。 https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/235002.htmlwww.hayakawa-online.co.jp