人体冷凍 不死販売財団の恐怖

久しぶりのノンフィクションのコーナーです。今回紹介するのは「人体冷凍 不死販売財団の恐怖」です。 アメリカでは死後に人体を冷凍し将来復活することにかけるという活動があるのを知っているでしょうか?人体を冷凍するときに体内の水が細胞膜を突き破るので保存は難しい、みたいな話もありますが、今でも一定の支持を受けています。科学関係の分野ではたまに話題に上るし、冷凍睡眠はよくSFのネタになるのでサークルの人ならそこそこ知っているのではないかと思います。 この本ではそんな死後の死体の冷凍を行う組織の一つ、「アルコ―財団」に勤務した一人の職員が内部告発として書いた本です。 筆者の元の職業は救急救命士でした。ラスベガスの救急救命士という極めて危険な仕事を25年も続けてきた筆者でしたが、さすがに限界を感じ転職先を探し始めます。危険やスリルに飢えた性格をしている筆者はある日目にしたアルコ―財団の事業内容にひかれ、凍った道路での事故率低減や移植用臓器の冷凍と解凍などこれまで救急救命士としてみてきた様々な悲劇を防げるかもしれない研究をできると言われ務めることになります。 これ以降の文章を書いていたら大分生々しく気持ちの悪いものになってしまったのでスレッドの方に書きます。雑に扱われる死体の話とか胸糞の悪い話をそこそこするので見たくない人はここで止めてください。

しかし、最初の見学で全く手入れされていない応接室、ほこりをかぶった冷凍保存されている人物のトロフィー、保存されている薬品のほとんどが期限切れ、など不審な点をいくつも発見します。それでも好奇心と機体から正式に就職した彼でしたが、トップは適当な理由で家族を雇って高給を払い、務めている人々は延々と内部の権力争いを繰り広げ肝心の冷凍保存は極めてずさんに行っている実態を知ることになります。それだけならまだしも、宗教団体まがいの組織との密接なかかわりや、何の意味もない動物実験をしている研究所、などなど最悪の内部事情を目にすることになります。 そして実際の冷凍保存の現場に立ち会った筆者は、脳液を不凍液と交換する処理で出た大量の血液(処理をした人物は感染症にかかっていたので汚染されています)を施設の外の下水に流す、搬送車の手配が遅れたせいで死体が砂漠を走る間に熱でドロドロに分解されてしまっているなどの事案に遭遇します。 そしてまだ延命の可能性のある人物に無理やり薬剤を注射し冷凍保存した可能性(完全な殺人罪です)に遭遇するにあたり筆者は会話を録音しこの事実を暴くことを決意します。 個人的に人体冷凍自体には現時点では現実味は薄いだろうけど研究が進めばかなり完全な状態で保存できるようになると思っていたので内部がこんな感じになっているというのは結構な衝撃でした。まともな研究によって技術を進歩させるのではなく永遠の命を与える一つの宗教を信じている彼らは一つのカルト宗教にすぎず、実際に死体を保存しなおかつ科学のふりをしている時点で非常に質の悪いものです。しかし閉じたグループの思想がどんどん先鋭化し何の疑問を持つこともなく停滞していしまう、というのはどんな組織も持つ危険性ですしそういう一つの事例を見ることは大切かも知れません。 本書の真ん中には写真を集めたページがあり、白黒で大分分かりにくいですが切り離された生首などが載っているページもあるので一応言ってはおきます。

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