アメリカン・プリズン

今回はついでにアメリカでの民営刑務所の実態を描いたノンフィクション、「アメリカン・プリズン」を紹介したいと思います。 日本でも民営化によるコストカットは時々選挙の争点になりますが、アメリカでは刑務所の一部が民間企業により運営されています。民営刑務所は州や連邦政府から囚人に対し一日いくらという金額で契約し、彼らを収監する刑務所を運営しています。しかし一日当たりいくらという支払い体系であるため、運営費を徹底的にカットした方が利益が上がります。そのため囚人たちは劣悪な環境に置かれていました。 著者はかつてイランに取材に行った際国境線に近づきすぎてスパイ容疑でとらえられ2年以上収監されていました。帰国後PTSDを発症した彼は自身の経験と向き合うためにもこの民営刑務所の一つに潜入取材することを決意します。 本書の半分は彼の潜入取材るポタージュで占められており、もう半分では囚人を労働力としてきた歴史が紹介されます。南北戦争がおわり、奴隷制が廃止された南部では安価な労働力を失い経済が疲弊していました。そのための解決策として編み出されたのが黒人を微罪で逮捕し刑罰という名目で強制労働させるというものでした。この南北戦争終結から現代まで続く刑務所で利益を上げる方式の変遷もまた興味深いものがあります。 横暴な刑務所というと看守が囚人に暴力をふるうものを想像するかもしれませんが、民営刑務所のコストカットは職員にも及んでおり、時給は9ドル、基準の人員の半分しかいない職員により運営されています。そのために刑務所では看守と囚人の奇妙な協力関係が生まれています。もちろん看守は囚人になめられないために高圧的にふるまったり、もともと高圧的な性格の人物も(特に上層部に)いますが、彼らも囚人の意向を簡単に無視することはできません。そもそもコストカットのために警棒も催涙スプレーも与えられていないので囚人に囲まれたら抵抗はできないのです。 そんな刑務所で暮らすうちに次第に著者の性格が変化していく様も描かれ、環境の恐ろしさも体感させられます。 www.tsogen.co.jp