生まれ変わり

「生まれ変わり」は純文学の書き手でもあるアメリカの中国人SF作家、ケン・リュウのSF短編集です。 同じく彼の短編集、紙の動物園はSFや純文学、ファンタジーなど様々な要素が読める短編集ですのでまた紹介するかもしれないです。 まずは表題作、「生まれ変わり」。地球を訪れた異星人と共存を始める人類ですが、人格とは無数の人格の集合体である、という前提から始まる彼らの法体系が大きな齟齬を引き起こします。精神の一部を改変する技術を持つ彼らは、犯罪を起こした人物に対して犯罪を犯した部分だけを消去し「罰する」ことで処分とします。強大な力を持つ彼らに対して受け入れられる人間とそうでない人間の考えの違いが軋轢を引き起こしていきます。彼らの合理的ともいえ、ある面では確かに正しい法制度と、過去の過ちが人類基準で正されていないことに対する怒り、どちらにも説得力を持って描いているのに唸らされます。 「介護士」では失敗の多い介護ロボットを購入した老人と家族ですが、老人はそのロボットと生活していく間にその裏の仕組みに気が付いていきます。 神々は~で始まる三作の連作短編ではとある契機で発生した意思を持った人工知性たちに翻弄される世界が描かれ、短編3つなのに映画一つ見たような気分になります。 「ビザンチン・エンパシー」ではNGOといった組織に頼らず、ブロックチェーンVRを駆使して直接貧困地域を支援しようという発想を、推進しようとする側とNGOの調整係二人の視点から描きます。革新的なアイデアは確かに進歩をもたらしますが、すべてが上手くいくわけでもなく、そしてそれらを双方の立場から描いていくことで説得力を与えています。 他にも様々なSF的アイデアとそれをうまく社会情勢に絡めながらしっかりと人間ドラマとしてまとめあげた短編の数々は見事の一言です。短編集で読みやすいので是非試験やレポートにつかれたときにでもどうぞ。 www.hayakawa-online.co.jp