ディアスポラ

今回はイーガンの長編の中で僕が一番好きな、「ディアスポラ」を紹介したいと思います。 舞台は25世紀、人類はいまだ肉体を持つ肉体人、電脳世界ポリスに移住した市民、ロボットに宿るグレイズナーの3種に分かれていました。あまたあるポリスの一つ、コニシで人格生成プログラムに生み出された孤児ヤチマや彼?の仲間たちのたどる数奇な運命を描いた作品です。 白熱光で説明したようにイーガンは数学の博士号を持っており、独自の緻密に練られた物理学の設定を駆使する作家で、この作品でも遺憾なくその実力を発揮していますが、肉体を持った人間も出てきますし(途中で絶滅しますけど)、比較的なじみ安い部類に入ります。少なくとも僕は中学生のころに夢中になって読めたので皆さんなら大丈夫です。 第1部、第2部で地球の地下深くや太陽系中に置かれた計算施設でプログラムとして生きるヤチマですが、ある時友人に誘われ廃棄されたグレイズナーのロボット(反物質駆動であと3000年くらいは動く)に乗って失われた肉体人と交流を目指します。肉体人たちは遺伝子工学を極め、家から発電装置まで生物で構成しており、肉体人そのものも数えきれない系統に分裂していました。彼らとの交流の後、あと数万年は起こらないだろうと言われたガンマ線バーストが突如として観測され、地球に降り注ぐことがグレイズナーたちの観測から明らかになります。 第3部では自分たちの物理学が間違っていることを突き付けられ、内向的だったポリスのうち、物質宇宙にこだわるカーター-ツィマーマンポリス一つが巨大な加速器長炉(太陽の直径の20倍近い長さに延々と1g以下の加速ユニットを並べ続ける頭のおかしい加速器)を建設、新物理学の目玉、ワームホールの製作に挑みます。 そしてワームホール建設が不可能と分かった第4部、ついに題名でもある宇宙探査計画、宇宙で知的生命がいると思われる1000の恒星に向けポリスそのものののコピー1000を送り込むというディアスポラ計画が始まります。これによって彼らはついに異星生物との接触に遭遇しますが… この第4部はワンの絨毯という独立した中編として発表され高い評価を受けたもので、この部分を構成するアイデアだけでも本書を読む価値があります。 そして第5部、ついに真実にたどり着いたヤチマたちの決断と新たな旅が始まります。 さて、小難しい理屈が山ほど出てくる作品ではありますが、基本は異星知性とのコンタクトを目指す冒険物語です。 他にも電子化された生命のアイデンティティ、ソフトウェアである自身の価値観を自身で定義できるときどんな価値観を選ぶのか(これはしあわせの理由というイーガンを代表する名作短編があるのでそのうち紹介します)などの問題も問いかけていくので、科学的なディテールがあいまいでもとても楽しめます。 普通では想像すら難しい壮大な旅路を旅できる一冊で、ラストシーンがとても好きなのでので是非読んでもらいたいです。 www.hayakawa-online.co.jp この本にも有志の解説サイトがあるので分からなくなったら是非。 ita.hatenadiary.jp