今回はSFならではの変わった世界を探検する一作、「太陽の中の太陽」を紹介したいと思います。 物語の舞台はヴェガ星系、外縁部の軌道上にはかつて設置された「ヴァーガ」と呼ばれる地球サイズの気球のような構造物がありました。 構造物の中では数々の人工太陽が輝き、その光の届く範囲に国が作られます。 この世界の最大の特徴は、なんといっても気球の中であるため空気があり、無重量状態である所。そんな世界で暮らすため人々は独特な生活様式を持っています。 例えばこの世界の町は木材で作られた巨大なリングであり、これを回転させることで疑似的な重力を生み出しています。ほかにもアルコール燃焼式のジェットエンジンのようなもので空を飛ぶスクーターや、そもそも足にひれをつけて飛び出すだけでも空を飛べるなど、この世界ではできない様々なアクションがみられるのも面白いです。 物語の主人公はかつて人工太陽を作ろうとし、宗主国に町ごと破壊された国エアリーの生き残りの青年。彼は復讐のために国の首都にやってきますが、数奇な出来事の果てに軍艦に乗り込みヴァーガの各地を巡る旅に出ることになります。 彼の旅の過程で気球世界の縁、巨大な水滴の中の町、そして人工太陽の部品を生み出している気球世界の中心など、特徴的な場所をめぐることができとても楽しいです。 以前紹介したインテグラル・ツリーのように無重力世界というのはとても面白く映像映えすると思うのでアニメでも映画でもいいのでどこか作ってくれないかと思っているのですがなかなか出ませんね… この小説は三部作の第一部なのですが残念ながら二部以降が翻訳されていません。出版が2008年で電子化もされていないので翻訳は絶望的なのですが、この一冊だけでも完結しており十分楽しめます。 旅に出るのが難しいご時世ですがぜひこの奇妙で楽しい世界を主人公とともに旅してみてはいかがでしょうか。