夢見る葦笛

今回は短編集、「夢見る葦笛」を紹介したいと思います。 同じ作者の短編集、「リリエンタールの末裔」を紹介しました。この短編集では人と科学技術が互いに影響を与えお互いが変化していく様を描いていましたが、この短編集では人と人でないものとの交流、そしてその関係性や境界線をテーマとした短編が収録されています。 表題作、夢見る葦笛では突然町中に現れるようになった人型のイソギンチャクのような生物をめぐる物語です。音楽を志したものの夢破れた主人公の女性は町中に出現し、美しい音楽を奏でるその生物を調べるうちに真実にたどり着きます。その一方それの生物たちは着実に社会に浸透し、人々の音楽への価値観を変えてゆきました。変わっていく価値観を受け入れるのか抗うのか、どちらが正解とも言えない問いに様々な人物がそれぞれの答えを出していきます。 他にも未来を予知する能力者が時折生まれる村で育った少女の半生を描いた一編や、はるかな未来、塔状の地形の上で生まれ飛び立ち、一生を飛行して過ごす異星生物と感覚を同調させた調査員の心象を描いた作品、地上が泥に覆われ人の活動の中心が地下に変わった世界で地上で生きる人々を描いた作品など、様々なタイプの短編が収録されています。 どれも心理と状況どちらも綿密に描写された美しい短編集ですのでぜひ春休みにどうぞ。 www.kobunsha.com