ディファレンス・エンジン

第1回はサイバーパンク創始者ウィリアムギブスンと同じくサイバーパンク小説の名手、ブルース・スターリングの共著「ディファレンス・エンジン」です。 チャールズ・バベッジの解析機関、と言えば皆さん一度は聞いたことがるかもしれません。いうなれば歯車式のコンピュータで、パンチカードという穴の開いたカードを使ってプログラミングすることが可能でした。これは実際には制作されませんでしたが、解析機関よりも限定的な計算ができる階差機関、と呼ばれる機械も考案しており、こちらは実際に制作されイギリスの博物館に展示されています。 物語に登場するのは解析機関ですが、この小説では現実の歴史との差(difference)を考えながら読む、という一面もありこのディファレンス・エンジンというタイトルが採用されています。 チャールズバベッジによって解析機関が完成し産業革命と情報革命が同時に起こった1885年のロンドン、アメリカは南北戦争によって崩壊しいくつもの独立国家が勢力争いを繰り広げ、イギリスでは貴族は実力制となり、イギリス艦隊によって開国した日本では福沢諭吉たちが英国に秘密留学しています。 そんな我々の知る世界とは異なる歴史を歩んだ世界、古生物学者エドワード・マロリーは蒸気自動車レースで暴漢に襲われた女性を救います。その女性の名はエイダ・バイロン、解析機関の女王の異名を持つ彼女を救ったことでマロリーは陰謀に巻き込まれていくことになります。 彼ら以外にも日本からの秘密留学生やロンドンの機械式投影映像作家など、様々な人物が巨大な陰謀にも巻き込まれてゆく群像劇となっています。 正直訳がかなり古くて読みにくい部分なんかも多いのですが、ファンタジーに振り切った多くの作品と違い、絶妙に現実的なラインをたどっていく一作になっています。 早川新訳出してくれませんかね。

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