ペルディート・ストリート・ステーション

特集を完結させないままなあなあで終わるのもよくないので今回「ペルディート・ストリート・ステーション」を紹介してスチームパンク特集を終わりにしようと思います。 さて、ペルディート・ストリート・ステーションは僕がスチームパンクの中で一番紹介したかった一作になります。 物語の舞台は「バス=ラグ」と呼ばれる蒸気機関と魔術学が隆盛を極める世界の最大勢力、都市国家ニュー・クロブゾン。都市に住む知的生命は人間だけではなく、翼と鳥の頭を持つ鳥人や人型の両生類、頭が昆虫の人間や植物人間など、様々な種族がひしめき合って暮らしています。 物語の主人公は大学を追放された科学者アイザック。彼は追放された後も独自の統一理論の研究を続けていますが、そんな彼のもとにヤガレグという鳥人が訪れます。彼はアイザックに罰によって奪われた翼の代わりとなる機械を開発してほしい、と依頼します。依頼を承諾したアイザックは研究に着手しますが、入手したサンプルにはとんでもないものが含まれていました… さて、この作家の長編としては以前「クラーケン」を紹介しました。「クラーケン」では実在のロンドンを舞台に、混沌とした物語が繰り広げられますが、今回は物語の舞台から架空の世界であり、さらに混沌とした物語が繰り広げられます。 この作品の第一の魅力は何といっても物語の舞台となる都市国家ニュー・クロブゾンでしょう。腐敗した横暴な権力がはびこり、公害が垂れ流されるこの街にはそれでも猥雑で活気にあふれた魅力があります。 そしてその街にひしめく数多の知的種族とガジェットも魅力でしょう。主人公の恋人は頭が昆虫の昆虫人ですし、物語の途中では植物人間のコミュニティや人型でない知的生物も登場します。時空を自在に織り上げる特殊能力を持った巨大な蜘蛛は作中のあちこちで登場し強烈なインパクトを残します。他にも地獄の大使館、とある秘密を抱えたロボットなど奇怪で魅力的なものが多数登場します。 最後の魅力として先の一切読めないストーリーがあるでしょう。アイザックが手に入れた奇妙な幼虫がやがて夢を食らうスレイク・モスとなり、都市に大災害を引き起します。そしてスレイク・モスをめぐってあらゆる勢力が動き出すことになりますが、どの勢力も癖が強く、どこが裏切り次にどう行動するのか全く予見できません。 個人的にスチームパンクとはその世界をいかに魅力的に、精緻に作りこめるか、というところだと思っているのですが、この作品ではスチームパンクの薄汚れているとともに魅力にあふれている世界を完璧に作り上げ、そのうえで重厚で先の読めない物語を展開するという僕の理想のスチームパンクを体現してくれたような作品となっています。 極めて残念な話として、2010年のSFが読みたい!という賞で海外編1位にもなり文庫化もされたのに続編がいまだ翻訳されず(全3巻で完結してるそうです)、文庫版も単行本版も電子化されていないうえに絶版という散々な状態なのです。 単行本版で660ページ近くある作品ですが、個人的にはスチームパンクの傑作だと思っていますのでぜひ読んでいただきたいです。

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追記 現在文庫の電子版が出ているのでいつでも読めます