未来の二つの顔

今回は前回に引き続きJ・P・ホーガンのSF小説、「未来の二つの顔」を紹介しようと思います。 人類の生活圏が月面まで広がった未来、HESPERというAI搭載コンピュータネットワークが人類の生活を支えていました。 しかしHESPERが本来軌道上に物資を打ち上げる設備であるマスドライバーを使って月面の工事現場を爆撃する事件が起こります。分析の結果、「工事を最短で行うこと、手段は問わない」という命令の結果「貨物で爆撃するのが最も早い」という結論を導いていたことが発覚します。 そこでより優れた推論システムを備えた次世代AI,FISEシステムに移行することが提案されますが、より優れたこのシステムは自己保存の機能を持ち、そのため意図せず人類に敵対する可能性が指摘されました。 HESPER,FISEシステムの開発責任者であるダイアー博士は完成したばかりのスペースコロニーに電子的、物理的に孤立した小型の社会を作り、そこで次世代AIと人類が敵対したとき何が起こるか実験をするよう提案します。 こうして二つの顔をもつ神にちなんで「ヤヌス」と名付けられたスペースコロニーでの実験が始まりました。

明らかに古典制御だったり前からあったシミュレーション手法だったりするものに片端からAIという名前の付くご時世ですが、この小説が出版されたのは1979年、今から40年以上前になります。そんな昔の小説ではありますが、常識がないため人が絶対に選ばない手段を選ぶなど、現代でもブラックボックス化したシステムに判断を任せた際に懸念される問題は本書でほとんど完璧に提起されています。 また本書の面白いところは登場するAI「スパルタクス」と直接コンタクトすることはない点です。多くの創作作品においてこういったAIは人格を持つよう設計され、会話やテキストでコミュニケーションが取れることが多いですが、この作品のAIは人間と直接会話することはありません。しかし、AIのとる行動の一つ一つから背後にある意思を感じ取ることができます。 AIを題材とした作品としてはおそらく現在出版されている多くの作品にも引けを取らない作品ですのでぜひ一読してみてください。

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