ヒト夜の永い夢

今回は一風変わった歴史改変SF,「ヒト夜の永い夢」を紹介したいと思います。 舞台は昭和初め、博物学南方熊楠のもとへ超心理学福来友吉が訪れます。彼に誘われ参加したのは昭和考幽学会というあらゆる物事について考え討論する奇妙な学会でした。 そこで彼らは新天皇即位を祝う独自行事を考えます。そうして考え出されたのが粘菌を使って思考する生体コンピュータを持った人形、「天皇機関」の開発でした。 生み出された少女型のロボット、天皇機関を天皇に献上すべく独自の列車に乗り込む昭和考幽学会の面々でしたが、天皇機関は独自の思考をはじめ自体は思わぬ方向に向かっていきます。 著者である柴田勝家(本人の写真がネットにありますがほんとにそれっぽいです)は民俗学を学んでいた人物で、これまでも民俗学をテーマにしたSFを何本か書いていますが、本書では昭和初期の実在の人物たちが次々登場し、夢とも現実ともつかぬ物語を繰り広げます。僕はあまり歴史に詳しくないのでどこかで聞いたことある人たちだな、位の感想しか持てなかったのですが、より詳しい人たちならさらに楽しめると思います。物語全体の雰囲気も昔何度か読んだことのある昭和の伝奇小説のようなエログロナンセンスの独特の調子と雰囲気を持っていて気づけばのめりこんでいます。 さて、彼らの手を離れてしまった天皇機関ですが、自身の胞子を使い夢とも現実ともつかない世を作り出していきます。それを用いた二・二六事件勃発を収めるため、南方熊楠たちは學天則の後継機を開発し大混乱の帝都へと乗り込みます。物語は熊楠が幼いころに見た夢から始まりますが、幾人もの夢と現実が交差していく過程で幻想的ながらも生々しいクライマックスへと進んでいく過程はエンターテイメントとしても一級品です。 歴史改変SF,幻想小説などあらゆる角度から楽しめる一冊なので歴史好きからファンタジー好きにまでお勧めできます。 www.hayakawa-online.co.jp