ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム

これまでは宇宙物のSFをメインで紹介してきましたが、趣向の違うSFも紹介していきたいと思います。 今回紹介したいのはゲームを題材としたSF、「ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム」です。 舞台は2115年、ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネームという100年近く前の形式で書かれたレトロゲームレビューサイトがオープンします。 このサイトでは100年近い歴史を持つビデオゲームの中でも低評価を受けてきたゲームを分かりやすく解説していきます。 つまり、これから先の未来に発売されるゲームを、更に未来でレビューする、という体裁をとっているわけです。 この本では計21の個性的なゲームが紹介されます。仮想現実発達初期、あまりにも仮想世界を作りこみすぎたがゆえにVR酔いを大量に生み出したゲーム、カルト宗教が洗脳のために作ったゲームに慄く世間と実際にプレイしたゲーマーのギャップ、3Dプリンタ搭載で自分好みのロボットを作って戦わせる大人気ゲームの末路、「月面で最初に作られたゲーム」という称号を得るために残念なことになってしまったゲーム、などなど、数奇な運命に翻弄されたゲーム達が著者(発達した医療技術で100年後まで生き延びた著者本人です)によって懐かしげに語られます。 著者は現実でも低評価を受けたゲームをレビューしており、この小説はその活動の延長としてカクヨムで連載されていたものを改稿し出版したものになります。 この本の魅力はやはり著者の圧倒的なゲーム愛を感じられることでしょう。存在しない架空のゲーム、しかも未来に存在するはずのゲームなのに、圧倒的な熱量をもつ語り口を聞いている間に不思議と懐かしい気持ちにさせられます。犬用に開発されたゲームをどうにかして遊ぼうとしてみたり、BMI(ブレインマシンインターフェース)を搭載したゲームが電子ドラックとして扱われるのを複雑な思いで眺めたり、中国でしか遊べない中国産PokemonGoみたいなゲームを遊ぶためにとんでもない計画をぶち上げてみたり、レビューの随所に差し込まれる自身の(架空の)体験も妙なリアリティと熱量をもって迫ってきます。 ゲーム世界を舞台にした物語や未来のゲームを描いたゲームは多くありますが、ゲーム自体をテーマとし、ここまでの熱量を詰め込んで描かれた物語はそうそうないでしょう。 改稿前のバージョンはカクヨムで無料公開されていますのでいつでも読めます。もともとwebサイトを100年後に再現してみた、という体で進む話なのでこちらを読んだ方が雰囲気だ出るかもしれません(この紹介書くためにweb版を読み返して時間が溶けました)。ゲーム愛に満ちた一冊、普段ゲームをしない人でも少し触れてみてはいかがでしょうか。 kakuyomu.jp www.kadokawa.co.jp